第19回学術集会

日本子ども虐待防止学会
第19回学術集会 信州大会

大会宣言

 1947年に制定された児童福祉法は、子どもが心身ともに健やかに生まれ、かつ育成されることの責務をすべての国民に課している。また、その後の1951年の児童憲章、さらに、1994年批准の国連子どもの権利条約が加わり、今では、わが国は、子どもが健全な出生、育成、発達の権利を有すること、そして、すべての子どもに幸福を追求する権利を保障することを,国内にも国際的にも宣言し責務を負った。子どもの「生きる権利・育つ権利」を保障することは、日本社会と、その社会を構成するわれわれ市民の重大な責務である。
 しかし、現実の社会はこの責務を果たし得ていない。虐待やネグレクトによる子どもの死亡の予防を目的に開始された厚生労働省社会保障審議会による重大事例検証報告は今年ですでに第9次を重ねるに至ったが、報告される各年次の虐待死亡事例数は一向に減少していない。また、虐待死亡予防の方策も、子ども家庭福祉にかかわる諸機関の的確かつ迅速な対応や、機関相互の連携の強化といった文言を毎年繰り返すにとどまっている。さらに、検証報告に基づけば、児童虐待防止法施行後から第9次報告までの12年間に、1000人にも及ぶ尊い命が奪われたことになるが、この数字自体が過小評価であるとの指摘もある。欧米先進国の多くが、すでに、子どもの死亡の全事例を対象とした死因究明のための「チャイルド・デス・レヴュー」を制度化しており、その結果、調査後に虐待死であることが判明した事例の多くが、最初の死亡診断では、事故死あるいは自然死と誤診されていたことが明らかとなっている。わが国ではいまだ「チャイルド・デス・レヴュー」が制度化されていないため、都道府県および厚生労働省の虐待死であるとの判断のみを根拠とした上記の数値は,実は氷山の一角に過ぎない可能性が高い。
 このように、検証報告は実態を十分に反映していない可能性はあるものの、児童虐待防止法の施行後,少なくとも1000人の子どもが虐待死したことは確実である。また、検証報告で、新生児期の死亡、特に日令0での死亡が多いことを明示したことは、これこそわが国の虐待死の実態把握の第一歩と評価できる。同時に、この点は、現行の子ども家庭福祉の法制度と実践が大きな課題を持つことを指摘した。
 多くの子どもが新生児期に命を落とすという悲惨な実態を把握しながら、有効な手立てを講ずることができないままにこの10年を過したことをしっかりと認識し、今こそ変革に向けた一歩を踏み出すべきである。
信州大会実行委員会は、こうした現状を深く認識し、さらに強い危機感をもちつつ、願いをこめて、「One Child, One Life〜安心して生きる、育つ〜」を本学術集会のテーマに掲げた。
 このような背景をふまえ、日本子ども虐待防止学会は、子どもの虐待死という深刻かつ喫緊の課題をすべての会員と共有し、日本国政府、地方公共団体、関係団体および市民と連携しつつ、組織の総力を結集して、以下に示す事項に関して、実現に向け真摯に取り組むことをここに宣言する。

  1. 今後5年以内に、わが国でも「チャイルド・デス・レヴュー」制度を整備、立し、子どもの虐待死の実態を明らかにすること
  1. 今までに明らかとなった子どもの虐待死の実態をふまえ、官民が一体となって、「虐待死ゼロ」に向けた,実効性のある年次計画を直ちに策定・実行し、その成果を毎年検証すること
  1. 特にすでに極めて多いことが明らかとなった「新生児期の虐待死亡をゼロに」を緊急目標に、妊娠期から出産後にかけての母親とその家族への継続的な支援、および乳児期の子どもへの支援のための施策と方策の検討と実行を、福祉、保健、医療等の領域の総力で取り組むこと

平成25年12月13日

日本子ども虐待防止学会
第19回学術集会 信州大会 大会長 小池健一
日本子ども虐待防止学会 会長 小林美智子