第15回学術集会

日本子ども虐待防止学会
第15回学術集会

さいたま大会宣言

 子どもの権利条約が国連総会で1989年に採択されてから20年、日本が1994年にこれを批准してから15年が経過した。そして、本年は、2000 年に児童虐待防止法が制定されてから10周年にあたる。 この10年間、わが国においては、法制度や施策の拡充などにより、子どもを虐待から守るための体制整備が図られてきた。しかしながら、全国の児童相談所における子ども虐待相談対応件数は42,664(2008 年度)に及び、また、重大な虐待事件も後を絶たない。子ども虐待による死亡事例検証の第5次報告によれば、2007年には113人もの尊い子どもの生命が虐待により奪われている。こうした現状からすれば、子ども虐待防止のためのさらなる体制の整備が必要であることはいうまでもない。
 特に、子どもの権利を守るために早急に取り組むべき課題のひとつは親権をめぐる問題である。親権者が子どもへの医療行為を拒否する医療ネグレクトは、時に子どもの生命を危機にさらし、深刻な問題となっている。子どもに適切な教育を受けさせない教育ネグレクトも問題とされている。しかし、わが国には、親権の一部(身上監護権)を一時的に制限する制度はなく、このような場合に迅速かつ適切に対応することは困難な状況にある。また、児童福祉施設や里親、一時保護などいわゆる社会的養護の場合においては、社会的養護のもとで生活する子どもたちに対する親権と、児童相談所ないし施設長や里親との監護に関する権限の関係が明らかでなく、そのため子どもの生活上さまざまな問題が生じてきている。 もちろん、社会的養護については、量的な整備のほか、人材育成などを含め、子どもの権利擁護を中心にすえた社会的養護全体の質の向上、体制整備を促進していくことが必要不可欠であることは論をまたない。 日本子ども虐待防止学会は、これらの子ども虐待防止対策の現状と課題を踏まえ、国に対し、

  1. 親権者による医療ネグレクトや子どもの教育権侵害等に適切に対応するため、司法手続きにより、親権の一部(身上監護権)を一時的に制限する制度を設けること。
  2. 児童福祉施設や里親、一時保護など社会的養護のもとで生活する子どもの養育に関し、児童福祉施設長や里親、児童相談所長の権限と親権との優先関係やその調整について法律上明記すること。

を強く要望するとともに、親権制度の改正および社会的養護の拡充のための方策を推進していくことを宣言する。

2009年11月27日
日本子ども虐待防止学会
第15回学術集会 埼玉大会長 海老原 夕美
日本子ども虐待防止学会長 小林 美智子