第17回学術集会

日本子ども虐待防止学会
第17回学術集会

いばらき大会宣言

 今日、わが国は、子ども虐待にかかわる種々の問題に直面し、極めて厳しい状況に立たされている。2000年には「児童虐待の防止等に関する法律」が制定・施行され、以降、虐待防止に関する各種の制度や事業が次々と創設されるなど、虐待防止対策の推進が図られてきた。また、2008年の児童福祉法改正では「養育支援訪問事業」や「こんにちは赤ちゃん事業」など、虐待の発生を予防することを企図した事業も法定化された。
 こうした努力にもかかわらず、児童相談所の虐待相談対応件数の増加は依然止まるところを知らず、2010年度には5万件を大幅に上回った。この増加には、市民の意識の向上による顕在化という要因が関与していることは明らかであるものの、一方で、虐待やネグレクトの実質的な増加を生み出す社会・経済・文化的要因の存在も否定できない。また、社会保障審議会児童部会の児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会の報告書によれば、虐待やネグレクトが原因で死亡する子どもの数は依然高い水準で推移しているという歴然とした事実がある。
 近年、経済的貧困や生活格差の問題が深刻化の様相を呈している。わが国において、経済的貧困が人々の社会生活や家庭生活にいかなる影響をもたらしているのかに関する系統的な研究は十分に行われておらず、今後の課題である。しかし、支援の対象たる子どもや家庭の実態からは、貧困および格差の問題が子どもの養育や家庭・社会生活を蝕むことは明らかであり、子ども虐待やネグレクトの増加につながるとの重大な懸念がもたれる。
 わが国は未曾有の大災害を体験し、また現在体験しつつある。戦争や災害などの災厄が、人々の心身両面を蝕み、貧困化を促進し、社会不安を生み、子どもや高齢者など社会的弱者とされる人々を深刻な状況に陥れることは、従来から数多く指摘されている。今次の大災害では、国内のみならず海外からも多数の支援の手が差し伸べられた。本学会においても、社会的養護のもとに置かれている子どもたちのためのケアマニュアルを作成し被災地等に配布した。しかし、被災地の過酷な状況は依然続いている。
 本年の民法改正により、親権の制限などの法制度の整備がようやく実現したことは、子どもの権利を守るうえで貴重な前進といえる。しかし、親権の制限は保護者への的確な支援をともなうことによってはじめて、保護者および子ども双方の福祉の増進に資することになる。今回の改正は、それに向けた第一歩であることを確認すべきである。
 以上の現状認識のもと、私たちは、以下を日本子ども虐待防止学会第17回学術集会いばらき大会宣言とし、当学会としてもそのために鋭意努力することを決意するものである。

  1. 子ども虐待やネグレクトを生み出す社会・経済・文化的諸要因を明らかにするための体系的で包括的な調査研究活動を実施すべきである。
  2. 上記の研究成果を踏まえた問題解決の手法を官民一体となって開発・実施すべきである。
  3. 保護者への適切な支援のあり方に関する研究を促進し、必要な支援が的確に提供できる体制を速やかに構築すべきである。
  4. 東日本大震災で被災した子どもや家族への大規模な継続的支援活動を行っていくべきである。

平成23年12月2日

日本子ども虐待防止学会いばらき大会長 宮本 信也
日本子ども虐待防止学会会長 小林美智子