児童相談所全国共通ダイヤルの三桁化に向けた緊急提言

平成27年(2015年)6月29日

一般社団法人日本子ども虐待防止学会

理事長 小林 美智子

 全国の児童相談所における児童虐待の相談処理件数が増加の一途をたどるなか、国は、平成21年(2009年)10月1日より実施している児童相談所全国共通ダイヤルについて、平成27年(2015年)7月1日から三桁化を開始するとしている。三桁化は、その覚えやすさから共通ダイヤルの社会的認知を飛躍的に拡大し、児童相談所に対する子ども虐待の通告をいっそう促進することが期待される。通告は児童相談所による子ども虐待対応の端緒となるものであるから、三桁化により通告が促進されることは高く評価されるべきものである。

 しかしながら、通告の促進という点で、このたびのシステムは十分でないきらいがある。すなわち、プッシュ信号を発信しうるNTTの固定電話から発信し、かつ、発信者の市外局番から管轄の児童相談所が特定できるという限られた場合には、電話はそのまま当該児童相談所に転送されるものの、その他の場合は自動音声案内により発信者に郵便番号を入力するよう求めるなど、一定の手間と時間を要求するシステムとなっているようである。そうだとすると、少なからぬ発信者が途中で電話を切ってしまうのではないかと懸念される。

 一方、通告の増大*1 は、児童相談所及び市町村が子どもの安全確認及び一時保護等の初期対応を求められる案件が増加することを意味するから(しかも、即時対応を求められるケースも少なくないものと予想される*2 )、その増加に対応するためには、児童相談所及び市町村の人的資源、とりわけ初期対応を行う人的資源が、人数的にも資質的にも十分である必要がある。ところが、かねてから指摘されているとおり、今なおこの点は十分とは言いがたい。

 また、通告のなかには、結果的に非該当と判明するケースや、虐待に該当するものの緊急性が高くないケースも含まれるところ*3 、三桁化により通告が促進されれば、相対的にはこのようなケースがより高い割合で通告されるものと予想される。そうすると、通告を受け付ける段階で適切な分別がなされないと、非該当も含めさまざまな重症度のケースが児童相談所に殺到することとなり、結果的に緊急度の高いケースに十分な時間と労力を割くことができない事態になりかねない。このことは児童相談所のケースワーク全体に深刻な影響を及ぼすおそれがある。

 分別という点では、児童相談所が対応すべきケースと市町村が対応すべきケースを適切に分類することも重要であるところ、通告の受付段階で適切なインテーク機能が設けられなければ、共通ダイヤルにかかった電話はすべて児童相談所に集中することになるから、現行法が想定し、かつ、これまで進められてきた児童相談所と市町村との役割分担にも混乱を及ぼすおそれがある*4 *5 。

 よって、当学会としては、国及び児童相談所を設置する地方公共団体に対し、共通ダイヤルの三桁化に伴い、早急に次の措置をとるよう提言する。

第1 安全確認や必要な場合の親子分離等の初期対応を迅速に行えるよう、初期対応を担う児童相談所や市町村の職員を十分に増員するとともに、十分な資質を確保するための措置を講じること*6 。

第2 都道府県ごとに1箇所*7 、コールセンターを設け、そのコールセンターにおいて通告を受け付けるとともに、そこにインテークを行う専門のケースワーカー*8 を配置し、通告内容を聴取して、当該通告ケースの緊急度や、対応すべき機関(児童相談所または市町村)を特定し、責任をもって転送するようなシステムを構築すること*9 。

第3 共通ダイヤルにかかった通告・相談に関して、児童相談所と市町村との役割分担を整理すること。

*1  大阪市では平成21年に児童虐待ホットライン(フリーダイヤル)を開設したところ、同年以降、相談件数が飛躍的に増加した(H20年度871件→H21年度1,606件)。

        大阪市の下記ウェブサイトより。
   http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000220357.html

*2  いわゆる泣き声通告などは、時間が経過すると泣き声も止み、家庭を特定することが難しくなるため、即応が求められる傾向がある。

*3  平成25年度の東京都の調査によれば、児童相談所への通告の2割強が非該当であった(児童相談所のしおり(2014年)平成26年統計より。これは下記ウェブサイトから入手可能である)。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/others/insatsu.html

*4  平成16年(2004年)児童福祉法改正は、「児童相談に応じることを市町村の業務として法律上明確にし、住民に身近な市町村において、虐待の未然防止・早期発見を中心に積極的な取り組みを求めつつ、都道府県(児童相談所)の役割を、専門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化」した(厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長発平成17年2月25日付「児童福祉法の一部を改正する法律の施行に関する留意点について」)。

*5  いわゆる泣き声通告などにおいては即応が求められる傾向があるところ、これらの通告・相談について広域を管轄する児童相談所のみが対応することは難しいものと思われる。

*6  具体的にどの程度増員すべきかはそれぞれの児童相談所の現状等にもよるが、大阪市における児童虐待ホットラインの導入により相談件数が倍増したことを考慮し、少なくともそれに近い増加があったとしても、児童相談所や市町村のケースワークに影響を受けない程度に増員することが望ましいと考えられる。

*7  コールセンターを個々の児童相談所に設置することは、後記のインテーク・ワーカーが高度の経験と専門性を有している必要があることや、24時間常駐させなければならない点を考えると、負担が大きく現実的でないように思われる。都道府県ごとに1箇所のコールセンターを設置することが望ましいと考えられる。

*8  さまざまな通告・相談を受け付け、必要な事項を聴き出し、緊急度等を判断するためには、受付を担当するインテーク・ワーカーは、子ども虐待対応に関して豊かな経験と高度の専門性、電話相談技術を有する必要がある。

*9  このようなコールセンターを設置して専門のインテーク・ワーカーが応答することとすれば、原則として自動音声案内等は不要となり、発信者に無用の手間や時間を強いることもないものと思われる。