児童虐待をめぐる親権制度見直しについての意見書

2009年11月26日

日本子ども虐待防止学会

現在、「児童虐待防止のための親権制度研究会」において、児童虐待をめぐる親権制度の見直しにつき議論が進められている。児童虐待ケースにおいて、児童相談所等が虐待を受けた児童を支援し、また再び虐待が行われることのないようその家族を支援するためには、場合によっては、民法上の親権の制限を伴う対応が必要となる。 ところが、現行法では、児童相談所が行う指導と親権との関係、一時保護中になされる児童への対応と親権との関係、児童福祉施設に入所中又は里親に委託中になされる児童への対応と親権との関係があいまいであり、現場において苦慮することが多い。また、児童相談所等が行う措置が民法上の親権を一定制限すると考えた場合に、どこまでの対応を裁判所の承認なく行い、どこからが裁判所の承認を必要と考えるのかという問題もある。 そこで、以上の点について、本会の意見を述べる。

1 現状の問題点

本会が関係者に対し、児童虐待に対応する上での親権をめぐる問題点について問い合わせをしたところ、おおむね別紙の通りの意見が出された。

これらの意見は、以下の通り分類できる。

 児童福祉施設や里親等(以下「児童福祉施設等」という。)が実施できる措置と親権との関係を問題とするもの(児童福祉法第47条第2項)

児童への医療行為(小児科治療、手術、予防接種、精神科治療等)について、親権者の承諾が得られず実施できない。
精神保健福祉法上の医療保護入院について、保護者の同意が得られず、実行できない。
療育手帳の取得ができない。
児童への教育的措置(幼稚園入園、特別支援学級・学校の利用、高校への入学・通学・退学、クラブ活動等)が適切にできない。
児童の就労が阻害される(就職に同意しない)。
児童にとって必要な各種契約締結行為(携帯電話加入、自立の際の住宅の賃貸借契約、預貯金)ができない。
児童の福祉のため必要と考えられる親族等との通信・面会が実施できない。
親権者による強引な引き取り等への対処に困る。
住民票の移動ができない。
財産の管理、定額給付金の取得,遺族年金の受給ができない。

② 児童福祉施設等入所中の親権者への指導・支援を問題とするもの

親子再統合のための枠組みが不十分である。

③ 児童福祉施設等退所後の親権者への指導・支援と親権との関係を問題とするもの

児童福祉施設等退所後も就職や財産管理上、親権に一定の制限を加える必要があるが、実現できない(児童の就労や自立に向けての各種契約締結行為ができない)。

④ 一時保護中に児童相談所が実施できる措置と親権との関係を問題とするもの

児童への医療行為や児童への教育的措置ができない。

⑤ 親族による支援の活用

 引き取りを希望する祖父母を活用できない
なお、児童福祉施設等入所中の問題は、一時保護中の児童にもあてはまるし、児童福祉施設等退所後の問題は、児童福祉施設等に入所前で一時保護もなされていない児童にもあてはまる問題である。

2 必要となる法改正について

(1)親権に関する総論的規定の改正について

子どもの権利条約の精神等もふまえ、親権に関して、子どもの成長発達の権利を保障するためのものであり、親が子どもを支配するためのものではないことが明確になるよう、総論規定の改正をすべきである。

  • 児童は、成長発達をする上で、適切な養育を受ける権利を持っていること
  • 親権の行使は、児童の最善の利益のために行われるべきこと
  • 懲戒権について定める民法第822条を削除すべきであること
  • 体罰及び子どもの尊厳を著しく害する行為を禁止することを明記すること

(2)児童福祉施設等入所中の児童に対する措置と親権との関係について

児童福祉法第47条を改正し、児童に親権者がある場合であっても、児童福祉施設の施設長や里親(以下「施設長等」という。)は、児童に対する日常的な措置をとることができること(日常の金銭管理を含む。)、及びこれを親権者に優先して行うことができることを法律上明記すること。
施設長等が親権者に優先して行うことができる日常的な措置の具体的な内容につき、所管官庁においてガイドラインを作成すること。
施設長等が児童に対し、日常的な措置を超える措置を行おうとするが,親権者の承諾を得ることができない場合に、家庭裁判所の承認を得て、これを行う仕組みを作ること。
前項の家庭裁判所の承認手続きは、同じ児童に対してなされる他の裁判手続きと系統的に行うものとし、関係者にとって利用しやすいものとすること。

▽ 問題の所在

児童福祉施設等に入所中の児童をめぐっては,現行の児童福祉法は第47条第2項において、「児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第6条の2第8項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。」と規定している。この条文からは、施設長等は、児童の福祉のため必要と判断すれば、親権に優先して様々な措置ができると解釈することも可能である。しかし、児童に対する日常的な措置を超える行為について親権者の意向に反して対応することまで認められるかどうか一義的に明確ではなく、実務に混乱をもたらしている。

また、現行法上、財産の管理については,親権が優先し、児童福祉法第47条第2項の範囲を超えると考える傾向が強く、児童に支給されている遺族年金を親権者が費消してしまうとか、施設内で貯めていた児童の小遣いを親権者が費消してしまうといった不都合が生じている。

従って、①入所中の児童について、施設長等の権限が親権よりも優先する範囲について、その基準を可能な限り明確にすること(これには一定の範囲の財産管理権限も含むこと。)、②当該基準を超えて親権を制限する必要が生じた場合にも、子どもの福祉のために必要な場合であれば、司法の審査を経てこれを実施することが必要である。

なお、施設長等の権限が親権よりも優先する範囲については、

(ア)児童にとって必要な措置といえるかどうかを基準とする

現行法と同様、施設長等が児童の福祉のために必要な措置ができるとし、必要な措置の中には日常的な措置だけではなく、必要性が認められる限りこれを超えるものも含まれること、これを親権者に優先して行うことができることを法律に明記すること。

(イ)日常的な措置といえるかどうかを基準とする

施設長等は児童に対する日常的な措置をとることができるとし、法律上、これを親権者に優先して行うことができることを明記すること。

が考えられる。

この点、いずれの考え方をとっても、現行法よりも事態は改善すると考えられるが、親権に対する重大な制限となりうる事項について、施設長等だけの判断で親権に優先して行うことには疑問もある。また、施設長等だけの判断で優先して実施できる措置の範囲を広くしても、親権にも関わる重大な事項について、司法の承認等のない中で実務上円滑に実施できないのではないかとの危惧もある。従って、(イ)の考え方の方が適切であると思われる。

なお、事案によっては,緊急治療が必要な場合等で,親権に対する重大な制限にかかる行為であるにも関わらず、司法審査を経る余裕のないことも想定されるが、これについては、児童の福祉のため必要であることが明らかで裁判所の承認を得ることのできないほどの緊急性が認められる場合には、裁判所の承認を要しない旨法律で規定することにより対応が可能と考えられる。

▽ 必要となる法改正の内容

施設長等は児童に対する日常的な措置をとることができるとし、法律上、これを親権者に優先して行うことができることを明記すること。
児童に対し、日常的な措置を超える措置を行おうとするが、親権者の承諾を得ることができない場合に、家庭裁判所の承認を得て、これを実施する仕組みを作ること

▽ 必要となる施策

施設長等が親権者に優先して行うことができる日常的な措置の具体的な内容につきガイドラインを作成することが必要である。例えば、医療行為ひとつをとっても、風邪薬の利用,検査のための医療機関の利用、精神科における治療、精神科治療に伴う投薬、一般の病院への入院、手術の実施、医療保護入院の同意等さまざまであり、親権に優先して施設長だけの判断で実施可能な措置の範囲を可能な限りガイドラインで明確にする作業が重要である。

また、親権者の意向に反するが、裁判所の承認を得て、高校等へ進学をする,医療行為を実施する等した場合に、当該費用を社会的に負担する仕組みが整っていなければ意味がない。この点もあわせて施策を整備すべきである。

▽ 系統的な司法関与の必要性

日常的な措置を超える範囲の措置について、裁判所の承認を得ることにより、親権者の意向に反してもこれを実施しうるとしても、親権者の意に反しないとして入所措置がとられている児童については、入所に反対の意向が示されれば施設を退所せざるを得ず、対応ができなくなる。

反対の意向が示された場合に、なお当該児童につき児童福祉施設入所等を継続する必要があるときは、一時保護の上、児童福祉法第28条第1項第1号に基づく承認を求めることになる。なお、親権者の意に反して、日常的な措置を超える範囲の措置が必要であるが、施設入所を継続する必要性までは認められない場合であっても、必要な措置が実施できるよう仕組みを整える必要がある。すなわち、家庭で生活する児童についても、児童相談所長が裁判所の承認を得て、親権の一部を停止させることができる制度が必要である。

(3)一時保護中の児童に対する措置と親権との関係について

一時保護中の児童に対し、都道府県または児童相談所長が、児童に対する日常的な措置をとることができること(日常の金銭管理を含む。)、及びこれを親権者に優先して行うことができることを法律上明記すること。
都道府県または児童相談所長が親権者に優先して行うことができる児童に対する日常的な措置の具体的な内容につき、所管官庁においてガイドラインを作成すること。
都道府県または児童相談所長が、児童に対し、日常的な措置を超える措置を行おうとするが、親権者の承諾を得ることができない場合に、家庭裁判所の承認手続きを利用して、これを実施する仕組みを作ること。
この家庭裁判所の承認手続きは、同じ児童に対してなされる他の裁判手続きと系統的に行うものとし、関係者にとって利用しやすいものとすること。
一時保護の実施に関して、親権者に異議がある場合に第三者機関による迅速な審査を行う手続き、さらに、親権者の同意が得られない場合の事前もしくは事後に裁判所の承認を要することとするいわゆる司法関与手続きを導入する等し、一時保護の適正さを強化する仕組みを整えること。なお、司法関与の導入を検討するにあたっては、手続きは可能な限り簡素なものとし、児童相談所の相談体制(人員及び専門性)の強化をあわせて行う必要がある。

▽ 問題の所在

一時保護中の児童についても、児童福祉施設等に入所している児童の同様、児童の福祉のため様々な措置が必要となる。現行法上は、一時保護を実施する都道府県または児童相談所長と親権者との関係について明文の規定はなく、児童福祉法第47条第2項に準じた扱いがなされていると考えられる。そのため、児童福祉施設等に入所している児童と同様の問題がある。一時保護中の児童を精神科の閉鎖病棟に一時保護委託できるか、できるとしてどこまでの治療行為が可能かが問題となることも多いが、これも一時保護中に都道府県・児童相談所長が行いうる措置と親権との関係の問題でもある。

また、現行法上、一時保護は、親権者の意向に反する場合であっても、裁判所の承認なく実施することが可能であるが、この点についても後述の通り課題がある。

▽ 必要となる法改正の内容

児童福祉施設入所中の児童と同様と考えられる(ただし、司法関与の導入については次に述べる。)。

▽ 一時保護の適正さを強化する仕組みの整備について

一時保護については、もともと親権者の意向に反してでも児童の保護ができるという強力な権限の行使であり、そもそも現行法のように裁判所の審査なく実施できることには問題があるのではないかとの指摘がある。実務上も、児童相談所の職員にとって、事前または事後に裁判所の承認を得る仕組みの方が、一時保護に強行に反対する保護者への対応がしやすいとの意見もある。さらに、一時保護中の児童に対する措置について、都道府県または児童相談所長が一定の権限を優先して行使できる旨、法律に明記するのであれば、そのこととの均衡上、裁判所の承認もなく親権者の意向に反して一時保護を実施できるとする現行規定を改めるべきとの意見もある。

他に、司法審査までは必要ではないが,現行の行政不服審査制度よりも迅速でかつ第三者性が確保できる制度の導入が必要との意見もある。

いずれにしても、児童相談所が行う一時保護の適正さを今以上に強化する仕組みを整備すべきであると考える。その方法としては、例えば一時保護に対する不服審査を担当する第三者からなる専門部会を設け、迅速にこれに対応するとか、親権者の同意を得ずに行われる一時保護について、事前または事後に一定の司法審査を導入するといった方法が考えられる。ただし、司法審査の導入にあたっては、現在の児童相談体制では、児童福祉司の人員や法的対応に必要な専門性がかならずしも十分でないところから、児童福祉司の増員及びその専門性の向上、弁護士による法的支援などの児童相談体制の拡充があわせてなされなければならない。また、一時保護の実施は、もともと都道府県または児童相談所の裁量のもとで行われていることや児童の安全確保のため迅速に実施する必要があることから、この司法審査については、できるだけ簡素化した手続とすべきである。

(4)児童福祉施設等退所後の支援と親権との関係について

児童相談所長の裁判所への申立により、必要と認める場合に、親権を部分的に制限し、児童の住居の確保のための賃貸借契約の締結、携帯電話の利用契約等を当該親権者の同意がなくても実行できるようにすべきである。

▽ 問題の所在

児童福祉施設等を退所した児童の中には、親権者と同居せず自立する者も少なくない。その際に、住居の確保のための賃貸借契約の締結、携帯電話の利用契約、労働契約の締結等につき、親権者の同意が得られない場合に、契約ができなくなってしまう。なお、児童福祉法上は、児童相談所長において親権喪失宣告の申立権が認められており、児童が18歳を超えた場合であっても当該申立は可能であるが(児童福祉法第33条の7)、先に指摘した困難がある場合であっても、親権者の親権全部を喪失されるほどの事由はないことがほとんどであり、児童相談所長において親権喪失宣告申立ができるだけでは不十分で、部分的に親権を制限する制度を導入する必要がある。

▽ 必要となる法改正の内容

親権を部分的に制限し、先に指摘した契約行為等を当該親権者の同意がなくても実行できるよう法を改正すべきである。なお、親権の部分的な制限の申立は児童相談所長が行いうるものとすべきである。

▽ 必要となる施策

以上のように、児童相談所長の申立により、親権を部分的に制限できるとした場合、児童が18歳に達した場合であっても引き続き児童相談所等の支援が必要である。そこで、児童の自立を支援するため必要があるときは(なお、実務上高校3年生の途中段階で児童が18歳に達し、児童福祉法上の対象児童でなくなるという不都合が日常的に生じている)、引き続き児童相談所及び児童福祉施設等が児童福祉法上の支援・指導を児童及び保護者に対して行うことができることを児童福祉法上明記するとともに、かかる支援ができるよう体制を充実するための措置をとるべきである。

(5)親権喪失宣告及び未成年後見人の選任について

親権喪失宣告申立権者に、未成年本人を加えるべきである。個人だけではなく、法人や地方自治体等であっても未成年後見人に就任できるようにすべきである。

▽ 問題の所在

親権者からの児童虐待がなされており、虐待を受けている未成年本人が親権喪失宣告の申立を行いたい旨の希望を持っている場合もある。現行民法上、成年後見については、本人が後見開始の審判の申立が可能であるにも関わらず(民法第7条)、親権喪失宣告申立については未成年本人に申立権が認められておらず(民法第834条)、不都合である。

また、未成年後見人には、現行法上個人の資格でしか就任できないため、未成年後見人の選任に苦慮することも多く、またこのことが原因で親権喪失宣告申立を躊躇する場合もある。このような不都合があるほか、成年後見人については既に法人であっても就任が可能であることから、未成年後見人についても、児童相談所や施設を運営する社会福祉法人等が就任可能となるよう法を改正する必要がある。

▽ 必要となる法改正の内容

親権喪失宣告申立権者に、未成年本人を加えるべきである。
個人だけではなく、法人や地方自治体等であっても未成年後見人に就任できるようにすべきである。

(6)親への指導・支援について

現在の児童福祉法第28条第6項を改め、家庭裁判所が親権者・保護者に直接家庭裁判所が保護者において一定の行為をとるよう勧告する制度に改めること。
この指導勧告は、児童福祉法第28条第1項第1号による措置や同法第28条第2項の措置をとっている場合だけではなく、親権者の意に反さないとして措置されている児童の保護者に対しても行うことができるようにすること
児童福祉施設等に入所措置がとられていない児童の保護者についても、児童相談所への通所、精神科への治療等一定の行為類型について、裁判所が保護者に対し、当該行動をとるよう直接勧告する制度を設けること。

▽ 問題の所在

そもそも虐待を行う親の中には、児童相談所等が行おうとする親への指導や支援を拒否してしまう者も少なくない。

現行法上は、家庭その他の環境の調整が必要な場合に、虐待を行った保護者に対してなされる指導について、保護者は児童相談所が行う措置に従う義務があり(児童虐待防止法第12条第2項)、これに従わない場合には、都道県知事が指導に従うよう勧告を行うことができるとされているが(同法第12条第3項)、指導措置について条文上義務であることを明記するだけでは実効性があるとは言えず、また都道府県知事による勧告に関してはほとんど利用されていない。

また、裁判所が関与するものとしては、児童福祉法第28条1項1号の措置や更新承認の措置がとられた場合に、家庭その他の環境の調整が必要な場合に、児童相談所に対して保護者を指導するよう勧告するとの制度があるが(児童福祉法第28条第6項)、保護者に対し、一定の協力を求める必要があるのに、裁判所が直接保護者に勧告せず、児童相談所に指導をするよう勧告するという形をとっていることが制度の趣旨をわかりにくくしており、活用しにくいとの声もある。

▽ 必要となる法改正の内容

現在の児童福祉法第28条第6項を改め、家庭裁判所が保護者に直接家庭指導勧告する制度に改めること。
この指導勧告は、児童福祉法第28条第1項第1号による措置をとっている場合及び同条第2項による措置の更新を行っている場合だけではなく、親権者の意に反さないとして措置されている児童の保護者に対しても行うことができるようにすること
児童福祉施設等に入所措置がとられていない児童の保護者についても、児童相談所への通所、精神科への治療等一定の行為類型について、裁判所が保護者に対し、当該行動をとるよう直接勧告する制度を設けること。

(7)親族との関係について

民法第766条第1項は、子の監護に関し夫婦の協議が整わない場合には、家庭裁判所に申立が可能であるとしているところ、父母に限らず子どもの親族であれば当該申立が可能であることを民法において明記すること。

▽ 問題の所在

児童が父母から虐待されている場合に、祖父母や父母のきょうだいがその児童を今後監護したいとの意思表示がなされ、児童にとってもその方がのぞましいと考えられることが少なくない。

このような場合に、祖父母や父母のきょうだいが、みずからをその児童の監護者に指定するように家庭裁判所に申し立てることがあるが、一部には祖父母や父母のきょうだいがこのような申立権を持つことを否定する見解や裁判例がある。

しかし、虐待を受けた子どもにとっては、仮に養育可能な親族があるのであればそれを活用した方が、子どもの最善の利益にかなうことが少なくないので、この制度を利用しやすくすべきである。

▽ 必要となる法改正の内容

民法第766条が規定する子の監護に関する処分については、父母に限らず児童の親族であれば当該申立が可能であることを民法において明記するべきである。

▽ 必要な施策

親族が児童の養育を希望し、かつ養育をさせることが適当である場合に、その親族に里親になってもらい(いわゆる親族里親)、そこに委託をするという方法も考えられる。しかし、平成14年9月5日雇児発905002号「里親の運営について」においては、親族里親が認められる場合の要件の一つとして、「親族里親への委託は、児童の両親が死亡、行方不明、拘禁等により物理的に当該児童養育が不可能な場合を原則とし、児童の実親が現に存在している場合には、実親による養育の可能性を十分に検討し、真にやむを得ない場合のみ、親族里親への委託を行うこと。」としており、相当程度限定的に考えているようにもみえる。この通知内容は要件が限定的すぎるので、この点を改めるべきである。

(8)医療ネグレクトについて

児童相談所長の家庭裁判所への申立により、親権を部分的一時的に制限するよう、民法を改正すべきである。

▽ 問題の所在

児童に一定の医療を実施する必要があるにも関わらずこれを行わない医療ネグレクトについては、現在は、親権喪失宣告申立を本案として、審判前の保全処分として親権停止及び親権職務代行者の選任申立を行い、当該代行者の承諾のもとで治療を実施している。

しかし、この方法では、治療の実施だけが必要であるのに、親権全部が停止してしまうこと、一定のケースでは治療が実施できれば親権喪失宣告申立等を取り下げ、もとの親権者が親権行使する事が念頭に置かれている。

そのため、本案で勝訴が見込まれない事案であるのに、審判前の保全処分を認めてよいのかという問題があり、親権を部分的一時的に停止し、親権代行者を選任するという制度を導入する方がよいと考えられる。

▽ 必要となる法改正の内容

医療ネグレクト事案において親権者の意向に反して医療を実施する行為は、親権の一部を一時的に停止して実施しているのであるから、児童相談所長の申立により、親権の一部を一時的に停止することができるよう法律を改正すべきである。

(9)系統的な司法関与の必要性

以上指摘した児童福祉施設等入所中または一時保護中の児童について裁判所の承認を得て措置を行う制度、家庭で生活し、または自立して生活している児童について、児童相談所長の申立により親権の一部を制限する制度、医療ネグレクト事案での医療の実施等のように親権の一部を一時的に停止する制度、裁判所が保護者に直接指導勧告を行う制度は、現行法にある児童福祉法第28条第1項第2号の承認制度及び同条第2項の更新の承認制度とともに、同じ家庭への司法介入は、同一の裁判所が系統的に関与する仕組みとすべきである。

すなわち、このような司法介入の必要性が認められるケースは、特定の裁判所にその児童及び家庭についてのケースが係属する形とし、児童相談所が主体的にケースワークを行うが、裁判所の承認が必要となる事項が生じた場合に、当該ケースを担当している裁判所に申立を行うようにするなどの仕組みを抜本的に整えるべきである。

今回の提案は、児童福祉施設等に入所する児童に一定の措置を行う際の裁判所の承認制度や入所していない児童についても親権を部分的に制限する制度、親への指導勧告を裁判所が直接行うことができる制度等を提唱している。

これらの制度を導入するには、親権の部分制限と子の監護に関する処分との関係、児童福祉法第28条第1項第1号事件の当事者でない親権者や保護者をどう取り扱うかといった点の検討も必要である。また、これらはすべて一つの家庭に対する支援であるのに、ばらばらに司法が関与することとなるとこの点からも、不都合もある。

そこで、これらの司法関与が必要となる事案においては、裁判所がたとえばいったん児童の監護権を保有するという形で、特定の裁判所にケースを係属させ、そのもとで、児童相談所は主体的にケースワークを実施するが、親権者の同意が得られず、一定の手続きが必要となった場合には、当該裁判所の承認を得て、指導を実施し、親権の部分的に制限するといった系統的な司法関与手続きを整備すべきである。

また、現行法では、児童福祉法第27条第1項第1号の指導措置や一時保護の実施、児童福祉施設等に入所の児童についての通信面会の制限、はいかい等の禁止等親権者の意向に反する措置を行う場合であっても専ら行政的な措置に委ねられているものと、臨検捜索や児童福祉施設等への入所措置やその更新手続き等親権者の意向に反して実施するには裁判所の承認を要するとされているものがある。先に指摘した系統的な司法関与の制度を導入するのであれば、専ら行政的措置に委ねられているものについても、司法審査を経る必要性を再検討すべき項目もあると思われる。

最後に、以上述べてきた法律の整備は、子どもの権利条約の理念に沿ってなされるべきであることを付言する。

以上